最終確認:2026年10月4日
銀行振込をすると、数秒で相手の口座に残高が反映される。QRコードを読み取ると、カードを使わずに店へ支払える。
こうした支払いを説明するとき、A2A、instant payment、real-time payment、RTGS、ISO 20022といった言葉が並びます。しかし、これらは同じものではありません。
最も重要なのは、A2Aは「どの口座からどの口座へ払うか」という経路の話で、instant paymentは「どれだけ速く、いつ使えるか」というサービス特性の話だということです。
さらに、利用者の口座へ即時入金されたからといって、銀行同士の最終的な資金決済まで同じ瞬間に終わっているとは限りません。
この記事では、FedNow、RTP、Pix、UPI、TIPS、日本の全銀システムを一次資料で比べながら、その違いを整理します。
- 結論:A2Aとinstant paymentは同義ではない
- カード決済とA2Aは何が違うのか
- 「数秒で着金」と「銀行間Settlement」は別の話
- 日本:全銀システムは1973年から即時入金を実現していた
- 米国:FedNowとRTPは別のRail
- 欧州:SCT Inst、TIPS、Weroは別の層
- ブラジル:Pix、DICT、SPIも同じものではない
- インド:UPIも「ひとつのアプリ」ではない
- 5つの層に分けると混乱しにくい
- RTGSとinstant paymentsの関係
- ISO 20022はRailではない
- Merchant PaymentでもA2Aが使われる理由
- Instant Paymentには新しい運用課題もある
- まとめ
- 関連記事
- 主な出典
結論:A2Aとinstant paymentは同義ではない
A2AはAccount-to-Accountの略です。
概念的には、payerの銀行口座などからpayeeの銀行口座などへ、カードのcredentialとカードschemeのAuthorization / Clearingを中心経路にせず資金を移動する支払いです。
一方、BISのCPMIはfast paymentを、payment messageの送信とpayeeがfinal fundsを利用できるようになることがreal-timeまたはnear-real-timeで、できるだけ24/7に近い形で行われる支払いと整理しています。
A2A ≠ 必ずinstant
instant payment ≠ 必ずRTGS
01 Card vs A2A
Cardholder
↓
Merchant
↓
Acquirer
↓
Card Network
↓
Issuer
Authorization → Clearing → Settlement
Payer Account
↓
Payer PSP / Bank
↓
A2A / Fast Payment Infrastructure
↓
Payee PSP / Bank
↓
Payee Account
Account-based credit transfer
カード決済とA2Aは何が違うのか
カード決済は、Cardholder、Merchant、Acquirer、Card Network、Issuerを通り、Authorizationの後にClearingとSettlementへ進みます。
A2Aでは、銀行口座やpayment accountを起点にcredit transferを動かします。利用者の同意を前提に第三者が口座情報へアクセスしたり支払指図を伝えたりする仕組みは、Open Bankingの記事で整理しています。
ただし、「A2Aなら仲介者がいない」わけではありません。銀行、PSP、scheme operator、settlement infrastructure、alias directory、consumer appなど、多数の主体が関与し得ます。
カード側の役割はCard Network、Acquirer、Issuerの記事で整理しています。
「数秒で着金」と「銀行間Settlement」は別の話
ここがinstant paymentを理解するうえで最も重要です。
BISの2021年CPMI reportは、利用者から見たFPSの体験がinstantでも、参加PSP間のfinal settlementはreal-timeの場合もdeferredの場合もあると整理しています。
つまり、利用者の残高がすぐ増えることと、銀行間の債権債務が中央銀行マネー等で最終決済されたことは、同じ瞬間とは限りません。
02 Instant UXとInterbank Settlement
| 利用者側 | 銀行間 |
|---|---|
| 数秒で入金・利用可能 | Real-time gross settlementの場合 |
| 数秒で入金・利用可能 | Deferred / net settlementの場合もある |
BIS CPMIは両方のsettlement modelを確認しています。
日本:全銀システムは1973年から即時入金を実現していた
全銀ネットによれば、全銀システムは1973年の稼働開始当初から、運用時間中の即時入金を実現していました。
さらに2018年10月にモアタイムシステムが稼働し、平日夜間・土日祝日にも対応することで、銀行振込の24時間365日化が実現しました。
ところが銀行間の資金決済を見ると、話は別です。
全銀ネットの現行説明では、1億円未満の取引について生じる銀行間の債権債務は、原則として1日1回まとめて日本銀行の当座預金で時点ネット決済されます。
一方、1億円以上の取引は、各取引ごとに日銀ネットのRTGSで決済されます。
受取人にはほぼ即時に入金しながら、銀行間Settlementは取引金額によりnet settlementとRTGSを使い分ける仕組みです。
「instant payment = 銀行間も必ずinstant RTGS」という理解が誤りだと分かります。
米国:FedNowとRTPは別のRail
米国には一つだけのinstant payment infrastructureがあるわけではありません。
Federal ReserveのFedNow Serviceは2023年7月20日に稼働しました。24x7x365で動き、depository institutions間のclearingとsettlementをnear-real-timeで行います。
一方、The Clearing HouseのRTP networkは2017年に開始されたprivate-sectorのinstant payment networkです。こちらも24/7で、immediate funds availabilityとreal-time final interbank settlementを特徴とします。
したがって「米国のA2A = FedNow」と単純化できません。
欧州:SCT Inst、TIPS、Weroは別の層
欧州でも似た言葉が並びますが、役割は別です。
| 名称 | 主な層 |
|---|---|
| SCT Inst | Scheme / Rule |
| TIPS | Settlement Infrastructure |
| Wero | Consumer-facing Solution / Interface |
| ISO 20022 | Messaging Standard |
ECBによれば、TIPSは中央銀行マネーでinstant paymentsを24/7/365 settlementするplatformで、final and irrevocable settlementを提供します。
Weroについては欧州の決済主権の記事で扱ったように、instant A2A infrastructureの上にconsumer experienceを作る方向へEPIが進みました。
ブラジル:Pix、DICT、SPIも同じものではない
Banco Central do BrasilはPixのscheme ownerで、さらにDICTというalias/account directoryと、SPIというsettlement infrastructureを運営しています。
SPIはRTGSで、異なるPSP間のtransactionを一件ずつreal-timeでsettleします。
つまりPixを理解するときも、QRやalias / Scheme / Settlement Infrastructureを分ける必要があります。
インド:UPIも「ひとつのアプリ」ではない
NPCIはUPIを、IMPS infrastructure上に構築されたinstant payment systemと説明しています。
PhonePeやGoogle Payなどのconsumer appはunderlying UPI ecosystemとは別のinterface layerです。
Otakuwalletでは、UPI上でPhonePeとGoogle Payへ利用が集中する理由を別テーマとして調査しています。ここで重要なのは、open / interoperable railを作ることと、consumer interfaceの競争を分散させることは別問題だということです。
5つの層に分けると混乱しにくい
03 A2A / Instant Paymentsの5層
- Interface / Alias — App、QR、phone number、proxy ID
- Scheme / Rules — participation、rulebook、fraud / exception handling
- Processing / Routing / Messaging — instructionのroutingとmessage format
- Settlement / Finality — PSP間をいつ何で最終決済するか
- Money / Account — commercial bank money、central bank money、payment account
この区分で見ると、Wero = Interface、SCT Inst = Scheme、ISO 20022 = Messaging、TIPS = Settlement、central bank money = Settlement Asset、と整理できます。
RTGSとinstant paymentsの関係
RTGSは、取引をまとめてnettingせず、一件ずつreal-timeでgross settlementする考え方です。
従来はCHAPSのような大口銀行間決済で重要でしたが、近年のretail fast payment systemsでもreal-time gross settlement型が増えています。
BISの2021年reportも、FPSのinterbank obligationsがpayment-by-payment basisでreal-time settlementされる例が増えているとしています。
ただし、すべてのfast payment systemが同じsettlement modelではありません。詳しくはRTGSとCHAPSの記事で整理しています。
ISO 20022はRailではない
instant paymentの記事でISO 20022という言葉も頻繁に出てきます。
ECBのTIPSはISO 20022 messagesを使っていますし、BISも多くのFPSがISO 20022を採用・移行していると報告しています。
しかしISO 20022はpayment messageのstandardです。
ISO 20022そのものがFedNowやTIPSのようなRailではありません。
カードで長く使われてきたISO 8583との関係も「古い8583を新しい20022が世界中で置き換えた」という単純な話ではありません。これは次の独立記事で扱うべきテーマです。
Merchant PaymentでもA2Aが使われる理由
A2AはP2P送金だけではありません。
QR、Request to Pay、invoice paymentなどと組み合わせることでmerchant paymentにも使えます。
カードschemeのmerchant-acquiring modelとは異なる経路を作れるため、EuropeのWero、BrazilのPix、IndiaのUPIなどではmerchant paymentも重要なuse caseになっています。
ただし、A2Aなら必ずカードより安い、fraudが少ない、chargebackが存在しないと一般化することはできません。
Instant Paymentには新しい運用課題もある
24/7/365で支払いが動くということは、便利さだけでなく運用上の要求も変えます。
- 夜間・休日も含むliquidity management
- 24/7 operations
- fraud detection
- sanctions screening
- mistaken paymentへの対応
- payee verification
- availability / resilience
欧州のInstant Payments RegulationがVerification of Payeeを求めているのも、この文脈で理解できます。
まとめ
A2Aとinstant paymentを理解するとき、最初に分けるべきなのは「速さ」と「Settlement」です。
A2Aはaccount-to-accountというpayment pathです。
instant paymentは、利用者がほぼreal-timeでfundsを使えるサービスです。
そしてinterbank settlementは、systemによってreal-time grossの場合も、deferred netの場合もあります。
だから、即時入金 = 銀行間Settlementも同時に完了とは限りません。
全銀システム、FedNow、RTP、TIPS、Pix、UPIを比べると、同じ「速い口座間決済」でもInterface、Scheme、Messaging、Settlement、Moneyの設計が大きく違うことが分かります。
シリーズ全体:決済の歴史としくみ|カード・EC・タッチ・認証の進化をたどる
関連記事
- なぜ銀行間決済はRTGSになったのか?CHAPSと「即時・グロス決済」の歴史
- カード決済のお金はいつ動く?Settlementと加盟店入金の仕組み
- 欧州はなぜ独自の決済網を作るのか?EPIからWero、ENPまで
- なぜ「Visaなら使えます」が成立するのか?Card Networkの力
主な出典
| 出典 | 公開日・版 | 用途 | 取得日 |
|---|---|---|---|
| BIS CPMI, Fast payments | 2016-11-08 | fast payment definition | 2026-10-04 |
| BIS CPMI, Developments in retail fast payments and implications for RTGS systems | 2021-12-14 | real-time / deferred settlement、RTGS、ISO 20022 | 2026-10-04 |
| 全銀ネット「全銀システムとは」 | 現行公式ページ | 1973稼働、即時入金、More Time System | 2026-10-04 |
| 全銀ネット「内国為替取引・資金清算の仕組み」 | 現行公式ページ | 時点ネット決済 / 1億円以上RTGS | 2026-10-04 |
| Federal Reserve, FedNow Service | 2023-07-20 update | 24x7x365 / clearing / settlement | 2026-10-04 |
| The Clearing House, RTP Network | 現行公式ページ | 2017 launch / 24×7 / final interbank settlement | 2026-10-04 |
| ECB, What is TIPS? | 現行2026ページ | central bank money / 24x7x365 / final settlement | 2026-10-04 |
| Banco Central do Brasil, SPI | 現行公式ページ | Pix settlement / RTGS | 2026-10-04 |
| NPCI, UPI FAQs | 現行公式ページ | UPI / IMPS / bank-account transfer | 2026-10-04 |
| Pay.UK, Faster Payment System | 現行公式ページ | 2008 / 24×365 / real-time service | 2026-10-04 |
